第2698号2021年12月13日)の内容

<1面>
   
岸田政権の大軍拡・独占体支援と

貧窮人民切り捨てを許すな


<2面>
大学祭を盛大にかちとる
第75回愛大祭 10・30〜31
第60回鹿大祭 11・12〜15
<3面>
福島第一原発
「40年廃炉」方針の破綻
<5面>
「公共サービスの復権」を叫ぶ自治労本部
トヨタ社員自殺に「労災」認定
Topics 立民新執行部に国民民主との再合流を要求する「連合」指導部
<4面>
「経済安全保障」としての半導体産業復活戦略 下)
TSMC日本誘致の意味するもの
<6面>
中国の「台湾統一」策動に対抗する蔡英文政権
ロシアの炭鉱で大惨事
陸自10万人大規模演習
週間日誌は4面に掲載
 「解放」最新号

































  


岸田政権の大軍拡・独占体支援と

貧窮人民切り捨てを許すな




 
  闘う学生たちは、岸田政権の憲法改悪・日米軍事同盟のグローバル同盟としての強化に反対して
 「12・4全国学生デモ」に決起した。改憲阻止・大軍拡反対の声、首都に轟く(12月4日、東京・港区)
 
 岸田政権は、十一月二十六日に総額三五兆九八九五億円の二〇二一年度補正予算案を閣議決定した。この過去最大規模の補正予算たるや、「コロナ不況」下で貧窮に苦しむ労働者・人民へのわずかばかりの支援≠ネるものを煙幕にして、自衛隊の軍備大増強や先端半導体の国内生産拠点の確保などの「経済安全保障の確立」、そしてゼネコンをはじめとする大企業への諸々の支援に、莫大な国家資金=血税を投じるものにほかならない。
 岸田政権は、迎撃ミサイル購入や米軍辺野古新基地建設などの軍事費に、補正予算としては過去最高の七七〇〇億円強を計上した。今年度当初予算とあわせると、軍事費はついに今年度GDP(国内総生産)比一%を大きく超える六兆円超にまで一挙に増額したのだ。
 さらにこの政権は、「デジタル化」や「脱炭素革命」などをめぐって国際競争にたち後れ凋落の一途をたどる日本帝国主義の生き残りを賭けて、それらの技術的基盤をなす先端技術たる半導体やAIの確保・開発のために巨額の補助金を投じようとしている。世界でトップの半導体製造技術をもつTSMC(台湾積体電路製造)の日本への工場誘致をはじめとする半導体産業への支援だけで七〇〇〇億円以上が計上された。岸田政権は、「新しい資本主義の起動」の名のもとに、「デジタル化」の帰趨を決する先端技術や軍民両用技術の開発を「官民一体」の国家プロジェクトとしておしすすめることに血道をあげているのである。
 まさしく、米中激突下の戦争的危機の深まりとサプライチェーンの分断のなかで、日米軍事同盟のグローバル同盟としての強化とそのための日本国軍の大増強、そして日本帝国主義経済の危機突破のためのなりふりかまわぬ独占体支援に突進しはじめたのが、岸田日本型ネオ・ファシズム政権なのだ。

首切り・賃下げ・大衆収奪強化の攻撃を打ち砕け!

 昨年来の新型コロナ感染拡大のもとで、数多の労働者が、資本家どもによって首切り・シフト削減・賃金切り下げを強制され、困窮の淵にあえいでいる。とりわけ、経営者どもによって雇い止めにされた労働者の多くが、適用要件の厳しい雇用保険の失業給付受給からも閉めだされて住居さえも失っている。
 いま、厳冬期を目前にひかえて労働者の生活はいよいよ苛酷な状況につき落とされつつある。資本家どもは食料品価格や灯油・ガソリン価格の相次ぐ値上げにのりだし、労働者・人民の生活苦に追い打ちをかけている。
 こんにち米・日・欧などの世界各国が「二〇五〇年の温室効果ガスの排出実質ゼロ」を掲げ「脱炭素」へと大きくカジを切ったことによって、油田・ガス田開発への投資はこの五年間で半減している。このことが現下の原油価格高騰の背景をなしているのだ。しかも、世界的な「脱炭素」の趨勢のもとで、原油の世界シェアの五割を占めるOPECプラス参加国(サウジアラビアやロシアなど)は、将来の価格下落をみこして当面の高値維持のために生産調整をはかっている。これらの諸国は、今年八月いらい日量四〇万バレルの小幅増産を実施しているとはいえ、米・日・欧などからの追加増産要求をかたくなにはねつけているのだ。
 そして、新型コロナウイルス感染の一時的収束にともなって拡大したアメリカの日用雑貨など生活必需品の物流は、港湾荷役・コンテナ・トラック輸送部門の人手不足のゆえに大混乱に陥っている。新型コロナ感染拡大の以前までこれらの業務に従事してきた労働者の多くが、感染再拡大後にまたもや解雇されるのではないか、と警戒して再就労を拒んでいるのだからである。
 しかも感染拡大を抑えこみ経済再開に突き進んでいる中国政府・企業は、食料や家畜飼料用の穀物を世界中から買いあさり買い占めにうってでている。
 こうした諸要因のゆえにもたらされた世界的な物価高騰を奇貨として、各国政府がたれ流してきた莫大な緩和マネーを投じての利ザヤ稼ぎに狂奔しているのがアメリカ・ヘッジファンドなどの金融業の資本家どもなのだ。これらの輩が、コロナ感染の一時的な縮小下で盛り返す消費需要を当てこみ、原油・天然ガスや小麦・トウモロコシ・大豆・食肉など、ありとあらゆる商品を投機の対象とし、みずからの利殖のための食い物にしているのだ。その結果こそが生活必需品価格の際限なき高騰なのだ。
 それだけではない。電気料金・ガス料金は三ヵ月連続でじつに九〜一〇%も値上げされている。なおそのうえに、電力会社・ガス会社の経営者どもの要請をうけた政府は、原油価格の高止まりを理由として、年明けにもそれら公共料金の再値上げを認可しようとしている。
 しかも自民党政権は、六十五歳以上の介護保険料の引き上げや、七十五歳以上の高齢者(年収二〇〇万円以上)の医療費窓口負担をすでに一割から二割へと二倍に引き上げることを決定した(来年十月以降に実施)。許しがたいことに、「コロナ不況」下で貧窮人民をいっそう困窮させる社会保障の切り捨てをどしどしおしすすめているのだ。
 岸田政権は、年収九六〇万円以下で十八歳以下の子どもをもつ「子育て世帯」に限定して、子ども一人あたり一〇万円分相当の給付をするとうちだしている。だが、たった一〇万円の、それもわずか一回だけの給付で、何が「子育て支援」だ。公明党の要求を採り入れたこの給付なるものは、来年の参院選にむけて自・公両党のもとに票をかっさらうという企みにつらぬかれたものでしかない。
 さらに、「コロナ感染対策」の名のもとに、「住民税非課税世帯」には一世帯あたり一〇万円を配布するとしている。だが、そもそも単身者で年収一〇〇万円(東京二十三区の場合)を超える労働者はあまねく課税世帯なのであって、生活保護の受給水準である年収二〇〇万円を下まわる労働者世帯でさえ、岸田政権は給付の対象から外しているのだ。
 独占資本への支援を最優先し、コロナ感染拡大のもとで困窮する労働者・人民を平然と切り捨てる岸田政権に断固たる怒りを叩きつけよ!

賃下げ要求≠掲げる「連合」指導部を弾劾し闘おう

 「連合」芳野指導部は、「二%」(定期昇給相当分込みで四%)の「賃上げ」を求める、とする「二〇二二春季生活闘争方針」をうちだした(十二月二日、中央委員会)。
 生活必需品価格の高騰がゆうに十数lを超えている(十月時点でガソリン一七%、灯油二〇%、小麦一九%、食用油一四%、輸入牛肉七%、等々)状況のもとで、労働者・人民の生活はますます困窮に追いこまれている。こうした状況のただなかで、芳野「連合」執行部が掲げている「二%」要求などは、「賃上げ」どころか賃下げをしか意味しないではないか。労働者・人民を愚弄するのもいい加減にしろ!
 そもそも二十一世紀に入っての二十年間、日本の労働者の賃金は低落の一途をたどっている。これこそは、「連合」結成(一九八九年)いらい日本労働運動に君臨してきた同盟・JC系右派労働貴族どもが、「企業の成長なくして賃上げなし」などとほざきながら賃上げ闘争を一貫して放棄してきたことの結果でなくして何であるか!
 「連合」指導部は、資本家どもによる労働者の無慈悲な切り捨て=首切り・雇い止めにたいしても、まったくたたかわないどころか、「失業なき労働移動を」などとほざきながら、それを容認し加担してきた。岸田政権の貧窮人民切り捨ての諸政策にたいしても、何ひとつ闘いを組織化しようともしていない。
 しかも彼らは許しがたいことに、「経済の好循環を起動させ、経済を自律的な回復軌道にのせていく」ための「人への投資」などと称して、春闘のとりくみを企業の生産性を向上させるための施策をめぐる労使協議へと完全におし歪め、切り縮めていこうとしているのだ。
 この輩はいまや、独占資本家どもが政府に求めている「デジタル・トランスフォーメーション」や「脱炭素革命」を促進する企業・産業支援策を、その先兵となって岸田政権に求めている。「連合」芳野指導部は、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」の場で経営者とともに自民党政府に日本の産業・企業の再興策の実現をお願いすること――このことをこそ自分たちの役割とみなしているのである。いまやまさしく<ネオ・ファシズム政権を支える労働運動>へと公然と踏みだし、今日版産業報国会の司令部≠ニしての本性をむきだしにしている「連合」労働貴族を怒りを込めて弾劾せよ!
 すべての労働者は、正規・非正規を問わず一律かつ大幅の賃上げを要求してたたかおう! 資本家・経営者どもの解雇・雇い止め・シフト削減と賃下げに断固として反対しよう! すべての労働者は雇用形態の違いを超えてともに団結し、二〇二二春闘の勝利のために奮闘しよう!
 コロナ・パンデミックの長期化のもとで、日本帝国主義の生き残りのためにあらゆる犠牲を労働者・人民に転嫁してのりきろうとしている岸田政権と独占ブルジョアどもの総攻撃――首切り・賃下げと労働強化、諸物価・公共料金の値上げ、社会保障切り捨てなどの諸攻撃――これを打ち砕くために、いまこそ岸田政権と独占資本家どもによる貧窮の強制に反対する政治経済闘争を強力に推進しよう!
 同時に、立憲民主党にソデにされることを恐れ「反安保」も「改憲阻止」も棚上げにしている日共指導部を弾劾しつつ、ただちに憲法改悪阻止の闘いに起ちあがろう! アメリカとともに対中国戦争を遂行しうる軍事強国にみあうものへと現行憲法を改悪しようとする、岸田政権のこの悪らつな策動を断じて許すな! 安保同盟の対中国グローバル同盟としての強化に断固として反対せよ!
 すべての労働者・学生・人民は、わが同盟革マル派とともに、いまこそ岸田極反動政権の打倒をめざして起ちあがれ!

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福島第一原発

政府・東電の「四十年廃炉」方針の破綻


 推定総量八八〇dもの「核燃料デブリ」を中心とする膨大な放射性廃棄物が存在する東京電力福島第一原発。東電廃炉推進カンパニーは、この事故炉からの「燃料デブリ取り出し計画」の「二〇二一年着手」を「延期」とし、今後の予定は「未定」であると本年三月に発表した。ついに東電と政府は、見せかけの「デブリ取り出し計画」すらもうちだすことができなくなったのだ。このことは、このかん掲げてきた「四十年廃炉」方針の破綻を彼らが自認したことを意味する。
 事故から十年半のこんにち、事故炉の老朽化がいっそうすすんでいる。いま労働者人民に新たな危機が迫っている。

2号機「デブリ取り出し計画」の頓挫

 公表された『廃炉中長期実行プラン2021改訂版』において東電は、それまでの計画をこっそり、そして大幅に変更した。
 二〇一九年段階では2号機を「初号機」として「気中工法」による「燃料デブリの取り出し」を計画していた。だが『改訂版』では、2号機はあくまで「試験」として「わずかな採取」だけにとどめるとし、「試験で得られた情報や経験」にふまえて「3号機を先行して検討を進め、1号機に展開することを想定」するなどと、「廃炉プラン」を大きく変更した。そればかりではない。「二〇二一年」と計画していた「取り出し開始時期」をなんと「未定」とし展望すら示さなかったのだ。記者会見の席上、「廃炉後の姿」について問われた廃炉推進カンパニー責任者の小野明は、「輪郭も示せず論議しようにもできない状況だ」とぶちまけた。「廃炉計画」の展望喪失ぶりを開き直ったのだ。
 「廃炉工程」の実質上の凍結を意味するこの計画変更を東電経営陣が今なぜおこなったのか。それはコロナの感染拡大によってイギリスでのロボット開発が遅れたからだけではない。わが革命的左翼や良心的な科学者・技術者が、「冠水工法」・「気中工法」の危険性と反人民性を完膚なきまでに暴露してきた(『新世紀』第三〇五号「核燃料デブリ取り出し計画の反人民性」など)。このゆえに、「廃炉工程は順調に進んでいる」などという欺瞞がもはや通用しなくなっているのだからである。

格納容器蓋に大量の高濃度セシウム

「取り出したデブリの保管方法」のインチキ

事故を引き起こした原子炉の新たな危機の切迫


「脱炭素」を口実とした原発・核開発を阻止せよ

 今日、自民党政権・東電経営陣は、これまでは隠ぺいしていた「廃炉工程」の惨憺たる現状を自己暴露しはじめた。それは事故後十年を経て、隠蔽することがもはや不可能なほどまでに、福島第一原発の状況が社会的に露わになってしまったからにほかならない。彼らは今なお「四十年廃炉」の看板を掲げつづけているとはいえ、早晩破綻することが目に見えているこの看板を居直り的に破棄して、一切の犠牲を労働者・人民におしつけることを目論んでいるにちがいない。労働者・人民の反対をおしきり、「関係者の理解なしにはいかなる処分もおこなわない」という漁業者との約束(二〇一五年)を反故にして政府決定した「トリチウム汚染水の海洋投棄」を見よ。これが奴らのやり口なのだ。
 自民党政権は「復興五輪」などと称してコロナ下でオリンピックを強行し、全世界の権力者に福島廃炉は順調などとでまかせを吹聴した。また「原子力は実用段階にある脱炭素の選択肢」などと位置づけて、停止中の原発の「再稼働」をどしどし進めるだけでなく、「多様な原子力技術のイノベーション」すなわち「小型モジュール炉技術開発」をも計画している〔「成長戦略」〕。今後最短でも数百年にわたる廃炉作業、これにともなういっさいの犠牲を労働者・人民に押しつけながら、事故をひきおこした張本人たる自民党政府・東電経営陣は、原発再稼働・新増設につっ走っているのだ。この暴挙を断じて許すな。
 「コロナパンデミック恐慌」のもとで、危機にたつアメリカ帝国主義を凌駕する超大国にのしあがる策動を加速している習近平の中国、これにたいしてバイデンのアメリカは、「台湾有事」に備え日米軍事同盟を対中国のグローバル同盟として強化せんと躍起になっている。誕生した岸田政権は、このアメリカの要請に応えて「敵基地攻撃能力をもつ」軍事強国への道をつっ走っている。また、「気候変動を安全保障上の一環として考察する」(『防衛白書』)として、新たな「国家エネルギー戦略」に原発・核開発を位置づけなおそうとしている。というのもネオ・スターリニスト国家中国の原発・核開発の推進に帝国主義権力者としての階級的危機感を燃やしているからにほかならない。
 習近平はいま「軍民両用」の「第四世代の原発」推進に突き進んでいる。この開発をつうじて習近平政権は二〇三〇年までに核弾頭一二七〇発分のプルトニウムを製造するといわれている。また、「華龍1号機」をパキスタンで建設しているように、「一帯一路構想」の推進のために原発輸出を重要な手段として位置づけている。原発・核開発を「中国製造2025」の重要領域として位置づけ推進しているのである。かかる中国スターリニストの軍事的・経済的うごめきに対抗して、バイデンのアメリカとの同盟強化を誓う属国日本の岸田政権は、日本の軍事強国化と一体のものとして原発・核開発に突進しているのである。
 十年前の福島第一原発事故後に発令された「原子力緊急事態宣言」は今も解除されてはいない。燃料デブリを取り出すことができる≠ニいう嘘八百のために、労働者・人民を塗炭の苦しみに陥れるというこれほど反人民的なことがあろうか。福島人民・原発で働く労働者は今このときも被曝を強制され人類最大の地獄で死に追いやられている。怒!

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「経済安全保障」としての半導体産業復活戦略 下)

TSMC日本誘致の意味するもの

D 激化する半導体囲い込み競争

E 岸田政権の半導体産業戦略


 政府・経産省は、十一月十五日に、「半導体産業基盤緊急強化パッケージ」と称する半導体産業再興策をうちだした。
 そこに描かれている「我が国半導体産業復活の基本戦略」なるものは、(1)「国内製造基盤の確保(緊急強化)」、(2)「次世代半導体技術の確立」、(3)「グローバル連携による将来技術の開発」の三段階(ステップ)から成っている。
 「ステップ1」として位置づけられている「国内製造基盤の緊急強化」は、@TSMCなどの海外の先端半導体工場の国内誘致と、A既存の老朽化した国内メーカー工場の設備更新への支援との二本立て≠ナなしとげる、とされている。政府は、このような「緊急強化」策を、「安全保障上の最重要課題」であるとおしだしたうえで、その実現のために「他国に匹敵する支援とそれを支える法的枠組みを構築し、複数年度にわたる継続的な支援をおこなう」と宣言している。
 岸田政権は、これらの「支援」をおこなうために、二〇二一年度の補正予算だけで六一七〇億円強を計上した。複数年度にわたって数兆円規模という米・欧に「匹敵する」巨額の補助金を半導体産業に注ぎこむために、それを基礎づける「法的枠組み」を、彼らはいま急いでつくりだそうとしているのだ。
 とはいえ、すでに述べたように、日本政府が「先端半導体生産基盤強化」の切り札ででもあるかのようにおしだしているTSMCの熊本工場は、22〜28ナノの旧世代半導体を製造するそれであって、「先端(微細)半導体」の工場ではない。
 現在の日本には、アメリカのGAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)のような微細半導体の大量供給を必要とするユーザー企業≠フ製造拠点がほとんど存在しない(スマホやパソコンの日本国内の製造拠点は基本的に消失した)。それゆえに日本で先端半導体を製造しても採算に合わないと計算しているのがTSMC経営陣であって、彼らは、「最先端半導体の工場を建設してほしい」という日本政府の要請にはあくまでも応じなかった。そもそも5ナノ以下の最先端半導体の製造で独占的地位を占めているTSMCの経営陣は、そのようなオンリーワン°Z術のラインを、流出の危険をおかして日本につくるほどにお人好しではない。彼らは、なりふりかまわず大枚を提示して懇請する日本政府の足下を見すかし、ソニー(や自動車部品メーカーのデンソー)という確実な買い手を確保したうえで、旧世代に限定した製造ラインの建設に応じたのである。それでもそれは、現時点では日本最先端≠フ半導体製造工場となるのだ(現在、日本のメーカーが量産しうる半導体の線幅はルネサスのそれが最小で40ナノクラスである)。
 政府・経産省は、この熊本工場建設を突破口≠ニして、やがてはTSMCのハイエンド半導体製造工場を国内に設立させ、また共同の研究開発による技術摂取をつうじて国内企業の先端半導体工場を建設することを夢想している。
 それとともに他方では、日本の半導体メーカーが一定の国際競争力を有している他の種類(先端半導体以外)の半導体の分野においても、政府は、その維持・存続・設備更新のための直接支援にのりだそうとしている。その対象は、車載用などのマイコン部門で世界第二位のルネサス、NAND型メモリーで世界第二位のキオクシア(旧東芝メモリー)、そしてCMOSセンサーで世界トップのソニーなどである。
 これらの半導体は、いずれも旧世代のそれ・いわゆる「レガシー系」であって、しかもその製造工場は総じて設備が老朽化している。それゆえに多くのメーカーが、台湾や韓国の企業との国際競争に耐えきれず、また工場の設備更新・技術更新をなしえないままであり、このままであれば消滅≠オかねない。これらのレガシー系の半導体を製造している日本企業にたいしても、政府は多額の補助金や基金(民間資金の呼び込みを含む)を提供して新ライン導入や設備更新を促そうとしているのである。

「日米連携」と「官民一体」の国家プロジェクト

強権支配と強搾取の「物的基盤」の確保


 岸田自民党政権がいま、「経済安保」を前面におしだしつつ莫大な国費を投じて実現しようとしているこの「半導体産業の復活」なるもの――それは、労働者・人民にいったい何をもたらすのか?
 あらゆるものがインターネットでつながり、ビッグデータをかき集めてAIで処理し、このAIやロボットを活用して権力者や支配階級にとって効率の良い人民の支配・管理をおこなう。――そのような社会を、「デジタル社会」とか「データ駆動社会」とかと称して実現することを夢見ているのが、政府・権力者どもなのだ。コロナ・パンデミックのなかで人民の生活・思想・動静をすべてスマホなどのICT端末で管理し統制して感染を抑えこんだ中国や台湾のデジタル監視体制が、彼らにとっては垂涎の的であり、理想像≠ネのである。そのようなデジタル監視・管理社会をつくりだすための物質的手段が、IoT(モノみなインターネット)と呼ばれるネット端末の集合体であり、その頭脳≠なす人工知能(AI)であり、5G・6Gなどの高速大容量の通信システムであって、そのすべてを動かすために大量に必要な「エンジン」が半導体なのである。まさに人であれモノであれ、あらゆるものに半導体チップを装着≠キることを基礎にしてつくりだされるのが、独占ブルジョアと権力者どもが理想とみなす「デジタル社会」にほかならない。この意味においては、日本政府・権力者がうちだしている「半導体産業復活」戦略は、ネオ・ファシズム的支配体制を飛躍的に強化していくテコとしてのデジタル・システムの導入、その物的基盤を確保するためのそれなのである。
 それはまた、労働者を、「資本の定有」としてのデジタル機械の奴隷にして強搾取するとともに、人民の個人データを国家と大企業が吸いとり・そこからさらなる利潤の獲得のための新ビジネスを創出していく。――このような末期資本主義の延命策たる「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の技術的基盤を保障するためのものでもある。
 まさしく日本政府・権力者がたくらんでいる「半導体産業の復活」とは、米・中激突下での世界的激動に即応しうるデジタル技術を駆使した強権支配と・デジタル合理化≠ノよる労働者への搾取強化をなしとげていくための、そのための物的基盤の確保・確立を意味するものにほかならない。それは、沈没の危機に瀕する日本帝国主義の生き残りのために、日本の労働者・人民にさらなる貧窮化とデジタル的=電脳的疎外を強いるものいがいの何ものでもないのである。

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