米・中の軍事的角逐の新局面
米―中・露核戦力強化競争反対の反戦闘争を推進せよ!
文在寅政権のGSOMIA破棄と東アジアの地殻変動
韓国の文在寅政権が、安倍政権にたいして韓・日間の軍事情報包括保護協定=GSOMIAの破棄を突きつけた(八月二十二日)。中国や北朝鮮にかんする軍事機密情報をアメリカの統括のもとに三国で即時に共有することはミサイル防衛システムの生命線をなすのであって、GSOMIAの破棄を文在寅政権がトランプ政権の制止を無視して強行したことは、対中国・対北朝鮮の米日韓三角軍事同盟の瓦解を意味する。
元徴用工への賠償を日本企業に命じた韓国大法院判決の撤回をごり押しする安倍政権が傲然としかけた輸出優遇国から韓国を除外する経済制裁、これへの対抗措置として、また次期法相に指名したみずからの右腕・゙国(チョグク)を標的とした「娘の大学不正入学」などの疑惑への追及をかわし・政権維持をはかるためにも、文在寅は日韓GSOMIA破棄に踏みきり「反日」ナショナリズムを鼓吹しているのだ〔九月九日に法相任命を強行〕。文在寅政権は同時に、アメリカ権力者がINF(中距離核戦力)全廃条約の失効と同時にアジアへの中距離ミサイル配備計画を明らかにしたことにたいして、韓国への配備を拒否すると中国権力者に確約したり(八月二十日の中韓外相会談)、独島(竹島)において韓国軍の「島嶼防衛訓練」――「竹島」の領有権を主張する日本を仮想敵国としたことが明白なそれ――を大々的に強行したりもした(八月二十五日)。
こうした文在寅政権の動きは、安保・外交戦略の基軸を、米・韓・日の対北朝鮮軍事協力から、中国・ロシアおよび北朝鮮との政治的・経済的関係の強化に移しつつあることのあらわれにほかならない。第二次世界大戦後=南北分断以後一〇〇年を迎えるまでに南北統一の民族的悲願を達成し「世界にそびえ立つワンコリア」を実現するという展望を思い描いているのが文在寅なのである。そのために、韓国にとって最大の貿易相手国であり・北朝鮮の後ろ盾を任じている中国との協力関係を強めることを基礎として「韓半島の平和体制」の構築をめざしているのだ。〔だが、南北が手を結んで「平和経済」を推進するならば統一を実現できるという文在寅が描く未来図≠ヘ、ネポチズム専制支配を護持せんとしている金正恩の北朝鮮との政治支配体制の根本的相違を無視しているがゆえに、画餅でしかない。〕
日韓GSOMIA破棄に踏みきった文在寅政権にたいしてトランプ政権は、「失望した」「米軍にたいするリスクが増大する」と非難し、撤回を迫っている。「世界の覇者」の座をアメリカから奪取せんとしている中国を「現状変更勢力」と烙印し・これを封じこめることを世界戦略の基軸にすえたトランプ政権にとって、対中国軍事包囲網の中核をなす米日韓三角軍事同盟を崩壊させる文在寅政権の裏切り≠ヘ看過できないのだ。トランプ政権は文在寅政権を米韓軍事同盟の鎖で縛りあげ、在韓米軍駐留経費負担の五倍化や対イラン「有志連合」参加=ペルシャ湾派兵などの要求を突きつけるにちがいない。
他方、習近平政権とプーチン政権は、中・露の軍事情報を収集する在韓米軍の「高高度防衛」ミサイルシステム=THAADを撤去に追いこむために、文在寅政権にたいする揺さぶりを強めるであろう。
米日韓三角軍事同盟から韓国が離脱する志向を文在寅政権が鮮明にしたことによって、いまや東アジア・朝鮮半島における<米・日・韓>対<中・露‐朝>の構図が崩れさり、構造的激変がもたらされつつある。韓国が中・露‐朝に与してゆくならば、日本列島が文字通りの対中国の最前線となる。このゆえに、日本をばアメリカを守るMDシステムのみならず中国を標的とするミサイルの前進基地たらしめようとしているのがトランプ政権なのだ。
朝鮮半島とならんで東アジアの地殻変動の焦点となっているのが、香港と台湾である。「逃亡犯条例改定案」の「完全撤回」のみをもって収拾を図ろうとした北京政府・香港行政府にたいして、香港の労働者・学生・人民は「五大要求は一つも欠かせない」を掲げてたたかいつづけている。この香港人民の闘争を、建国七十周年記念式典を挙行する十月一日までに圧殺することに、習近平政権は血眼になっている。深センに集結させた武装警察と香港駐留の人民解放軍がいつでも武力弾圧にうってでる態勢をとっているのだ。軍事・経済・政治の全部面におけるトランプのアメリカとの激突にかちぬくことに全力を傾注するために「内憂」をとり除く、すなわち香港人民のデモを鎮静化させ・中国本土に伝播することをなんとしても阻止せんとしているのが、習近平政権なのである。
香港警察の人民大弾圧を眼前にした台湾の労働者・人民のなかから、習近平が一月に明示した「一国二制度の台湾への適用」による「統一」なるものに断固として反対する声がまきおこっている。これを背景として、「一国二制度反対」と「香港デモ支持」をいちはやく表明した蔡英文が、来年一月の総統選挙に向けて国民党候補・韓国瑜にたいして優位に立つ情勢に転回している。半年前には国民党の「親中派」候補が優勢を誇っていた状況からの逆転がもたらされたのだ。
「台湾問題の解決・国家の完全統一」をなしとげおのれの歴史的業績たらしめる野望に燃える中国国家主席・習近平は、総統選で「独立志向」の民進党・蔡英文を叩き落とし台湾で高揚する「一国二制度による統一反対」の気運をかき消すためにも、なんとしても香港人民のデモをおさえこむことに必死になっている。
北京官僚政府は「人民解放軍は台湾を中国から分離しようとする者を断固として打倒する」と宣言し(「新時代の中国国防」白書)、台湾海峡において軍事演習を連続的に強行している。「台湾独立」を志向する蔡英文政権と、この政権を――歴代のアメリカ政府が掲げてきた「一つの中国」政策を実質上破棄して――支えているトランプ政権を牽制する示威行動をくりかえしているのだ。これにたいしてトランプ政権は、南シナ海で展開してきた「航行の自由作戦」を台湾海峡においても開始するとともに、六十六機もの新型F16V戦闘機の売却(総額八〇億ドル)を決定するなど蔡英文政権への軍事援助を一挙的に強めている。台湾をめぐって、米・中の軍事的緊張がかつてなく高まっているのである。
朝鮮半島、香港、台湾、そして中国が人工島の軍事要塞化を完成しアメリカが巻き返しに必死になっている南シナ海――これらを焦点として、アメリカと中国(およびロシア)との角逐の新局面がひらかれ、東アジアに地殻変動がひきおこされているのである。
(以下、見出し)
ミサイル・宇宙大軍拡競争への突入
世界の覇者の座を賭けて非和解的に激突する米・中
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