第2427号(2016年7月18日)の内容
本号の内容
<1面>
改憲総攻撃を打ち砕け!
<反ファシズム・反安保>なき日共の「立憲主義守れ」
運動をのりこえ闘おう
<4面>
EU分解・世界的地殻変動の幕開き
<5面>
オバマ広島訪問を礼賛する代々木官僚弾劾
<2面>
金沢で憲法改悪反対のデモ 6・19
◎中国・ASEAN外相会合が決裂
◎「米軍基地は沖縄に集中していない」と強弁する米軍当局
<3面>
熊本大地震で露わとなった「耐震性審査」のインチキ性
<6面>
横行するパワハラに抗して闘おう
「認定子ども園」への再編をごり押し
Topics 「全労連」指導部の16春闘中間総括
<7面>
憲法改悪とネオ・ファシズム支配体制強化を打ち砕け! <下>
自治体労働者委員会
<8面>
若き黒田さんの「学問的苦悩」
■防衛省に屈した日本学術会議
「解放」最新号
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EU分解・世界的地殻変動の幕開き 「EU離脱」を選択したイギリス人民 「離脱すべきか残るべきか」を問うた六月二十三日の国民投票において、イギリスの労働者・民衆は一二七万票の少なくない僅差≠ナ「Brexit(ブレグジット)(EU離脱)」を選択した。EU単一市場において利益をむさぼりつづける独占資本家とその政治的代弁者どもがくりひろげた「離脱はイギリス経済に致命的打撃を与える」という脅し文句は、キャメロン政権下で財政緊縮政策をおしつけられ移民との職の奪い合い・賃金切り下げ競争にさらされている労働者たちの心を逆撫でするものでしかなかった。「経済の安定を損なうな」だと? オレたちの生活を破壊しておいて、何が「経済の安定」だ!=\―これが、多くの労働者たちの真情であった。左翼諸党派の雲散・階級闘争の衰滅のもとで彼らは、「EUから主権をとりもどし、職を奪う移民の流入を規制せよ」という大英帝国ナショナリズムと民族排外主義に彩られた「EU離脱」の訴えに、みずからの虐げられた現実の打開の方途を求め、「EU離脱」に賛成票を投じたのであった。 イギリスの「EU離脱」というこの選択は、マネーゲームに覆われた現代資本主義世界をパニックに陥れた。イギリス経済はもちろん、EU経済や世界経済の予測不能の危機到来におびえた全世界の独占資本家と投機屋どもは、今いっせいに、より安全とみなした資産に資金を避難することに狂奔している。株式とりわけ銀行株が売られて世界同時株安が現出する他方で、日本・ドイツ・アメリカの国債や金(ゴールド)が買われて高騰し、英ポンドは歴史的な大暴落に見舞われている。直後のパニック的様相は数日で「鎮静化」したかにみえるとはいえ、イギリスの「EU離脱」選択は、EU分解の幕開けを告げ、世界的な金融・経済構造の大地殻変動をひきおこしつつある。 「社会主義」ソ連圏の自己崩壊と帝国主義諸国の階級闘争の衰滅=プロレタリア的階級性の蒸発、というスターリン主義の歴史的大犯罪にささえられて経済のグローバル化を推進し、全世界の労働者・民衆を失業と貧困の地獄に突き落として延命をはかってきた米欧日の現代帝国主義は、いまや金融緩和マネー依存症を深刻化させつつ衰弱し、グローバル化・リージョナル化と国民国家との相剋に揺れうごいている。経済のグローバル化がもたらした階級分裂の極端化、このゆえの労働強度の増進と貧富の差の拡大、そして電脳的・スマホ的疎外の深まりにたたきこまれている帝国主義諸国の労働者・民衆の闘いは、しかし「格差」にたいする市民的反抗に解消されたり、民族排外主義的運動に疎外されたりしてしまっている。この悲劇的現実を突破するために、いまこそスターリン主義を超克し、真のマルクス革命思想で武装した労働者階級のインターナショナルな闘いが戦闘的に再生されなければならない。 (1) 階級的・地域的分裂を露わにした国民投票 イギリス首相キャメロンと保守党内残留派および労働党指導部が「EU離脱の経済的ダメージの大きさ」をがなりたて残留を懇願したにもかかわらず、そしてEU諸国権力者たちやアメリカ大統領オバマ、さらにはIMFやNATOのトップまでもが「EU離脱」の危険性をあげつらい残留派の援護射撃をおこなったにもかかわらず、イギリスの労働者・民衆は「EU離脱」を選択した。とりわけ、イングランドの地方都市と農村部、そしてウェールズの労働者たちの多くが「離脱」票を投じた。イギリス主要部のイングランドにおいて「EU残留」票が多数を占めたのは、ニューヨーク・ウォール街と並ぶ国際金融センター・シティを擁するロンドンとその周辺のケンブリッジなど、金融やICTや医療産業などが集積する大都市部だけであった。 スコットランドと北アイルランドの人民の多くが「EU残留」を支持したとはいえ、彼らの思いはイングランドの支配・収奪≠ノ抗するためにEUとの結びつきを維持・強化することにあった。――イングランドに「資源」も「人材」も収奪され格差が拡大しつづけている、と反発し危機意識を強めるスコットランドの支配層と民衆の多くが、スコットランドの排他的経済水域圏にある北海油田を経済的基盤にして、イギリスから独立しEUに加盟することを希求している。また北アイルランドでは、イギリスから独立し、アイルランド(EU加盟国)との国家的統一を熱願する動きが脈打ちつづけている。まさにこのゆえに、イギリスの「EU離脱」が選択されたいま、スコットランドでも北アイルランドでも、「EU残留」を名分として、イギリスから独立すべし、という気運が急速に高まっているのである。 経済のグローバル化を積極的に推進しつつ「金融立国」として生き延びることを追求してきたイギリス資本主義、この現状を肯定し維持する観点から「EU残留」票を投じたのは、明らかに、ロンドンとその周辺の金融業やハイテク産業を牛耳る独占資本家・富裕層と、これらの諸企業に雇用され相対的に高賃金を受けとっている高学歴のホワイトカラーやスカイカラーの労働者たちおよび雇用される可能性が開けていると思わされている高学歴の若者たちだけであった。残りの大多数の労働者・民衆は、経済のグローバル化とこのもとでキャメロン政権がとりつづける財政緊縮政策によって強いられてきた失業と強搾取と貧困にたいする鬱積した憤懣と怒りを、――階級闘争の衰滅のもとで「移民に職を奪われ公共サービスを食い潰されている」という民族排外主義イデオロギーにも感化されることによって――「EU離脱」選択というかたちで表出させた。スコットランドと北アイルランドにおいて「EU残留」票が多数を占めたのもまた、経済のグローバル化のもとで進行するロンドンへの富の集中とイングランドへの従属≠フ強まりにたいする、労働者・民衆の反発と拒絶の屈折した意思表示にほかならなかった。 まさしく「EU離脱」というイギリスの労働者・民衆の僅差≠フ選択は、経済のグローバル化の進展のもとで、現代イギリス資本主義社会がよりいっそう階級分裂を露わにし、いまや階層的にも地域的にも世代的にも分断され、連合王国(UK)という国民国家の枠組みそのものが空中分解の危機にあることを白日のもとにさらけだしたのである。 (2) グローバル化・「金融立国」のもとでの社会経済的諸矛盾の拡大 実際、経済のグローバル化の推進のもとで、イングランドの地方都市において企業城下町を形成していた自動車、鉄鋼、造船などの伝統的な製造業は、日本や韓国の諸企業との国際競争に敗れ、「世界の工場」にのしあがった中国企業にとどめを刺され、もはや見る影もないまでに衰退してしまっている。(イギリスの自動車産業は、すべて日系企業など外国資本の傘下に入ってしまった。このことに象徴されるように、イギリスの製造業は外資だのみを強めている。いや金融業さえもが基本的に外資依存なのである。イギリス産業のウィンブルドン化≠ヘ、かくも凄まじい。) イギリス支配階級は、製造業の衰退として現れたイギリス資本主義のこの危機を、「金融立国」をおしすすめることによってのりきってきた。一九六〇年代のオフショア市場としてのユーロドル市場の形成を歴史的前提とし、サッチャー政権の「金融ビッグバン」(一九八六年)という一大規制緩和をテコとして、歴代政権は、ロンドン・シティを国際金融センターへと発展させてきた。EUに加盟しながらも単一通貨ユーロを導入せずにポンド通貨を維持し、オフショア市場の強みを発揮して基軸通貨ドルと欧州地域通貨ユーロとの仲介をおこない、また大英帝国の遺産≠スる属領を駆使してタックス・ヘイブンを提供することによって、世界中から資金を引きつけるとともに世界中に資金を供給・再配分し、もって莫大な金融的収益を巻きあげる、というかたちにおいて金融業をイギリスの基軸産業≠ヨとおしあげてきたのである。ロンドン・シティは、いまや世界の外国為替取引の四〇%超を占めて断トツの世界一を誇り、世界の金融諸機関がロンドンにひしめきあっている。イギリスGDPの三〇%近くをシティが稼ぎだし、この金融業を中心にした第三次産業が、イギリスの雇用人口の八〇%を占めるまでに膨れあがっている。――このいびつな産業構造のゆえに、イギリスはアメリカに次ぐ世界第二位の構造的な経常収支赤字国に転落し、この赤字を補填するためにも巨額の資金流入に依存せざるをえなくなっている。それゆえイギリスのEU離脱は、<ポンド下落―資金流入の途絶>の悪循環による金融・経済危機を胚胎することにもなっている。 金融業を基幹産業≠ヨとおしあげたこうした追求のもとで、斜陽産業となった製造業や炭鉱などから放り出された地方の根っからのブルーカラー労働者たちは、金融業やハイテク産業などに転職しうるはずもなく、その多くが低賃金の建設業や流通業などで糊口を凌ぐ境遇に追いやられてきた。しかもEUの東方拡大(二〇〇四年)を契機として、ポーランドなど中東欧諸国から移民として大量に流入してきた労働者たちを、超低賃金で雇いこき使うというやり口を資本家どもは採ってきた。(流入した移民労働者の数はいまや、ポーランドからの八三万人を筆頭に三〇〇万人を超えるまでに膨らんでいる。) こうしてイギリス人労働者たちは、移民労働者との職の奪い合いにたたきこまれ、失業に追いこまれたり、大幅に賃金を切り下げられたりしてきたのである。しかも高失業率の見かけ上の引き下げを企むキャメロン政権のテコ入れのもとに、資本家どもは、ゼロ時間契約の雇用(資本家が必要なときだけ働かせ・働いた時間分の賃金しか支払わない、という資本家の利害に全面的に適合させた雇用形態)の導入・拡大にも狂奔してきた。いまやゼロ時間契約の雇用を強いられている労働者は、一八〇万人とも五〇〇万人ともいわれるまでに激増している。(二〇〇八年のリーマン・ショックで跳ねあがったイギリスの失業率はいま五・〇%に低下したとされているのであるが、この「低下」がゼロ時間契約の激増によって支えられていることは明らかである。) ところで、リーマン・ショックとして現出した世界金融パニック(二〇〇八年)は、とりわけ「金融立国」イギリスを直撃し、イギリス経済は莫大な損失をうみだした(銀行の損失額は、アメリカ一兆ドル、ユーロ圏諸国八〇〇〇億ドルにたいしてイギリスは六〇〇〇億ドルにのぼったとされる。この損失規模は、GDP比ではアメリカの三倍超にあたる)。この危機をのりきるために、当時のブラウン労働党政権は、銀行への資本注入や巨額の財政支出政策を強行し、財政赤字をGDP比一〇%超に急膨張させた。二〇一〇年に自由民主党との連立で政権を握った保守党・キャメロンは、この膨れあがった財政赤字を削減するために緊縮財政を十年間つづけるとわめきたて、労働者・人民に襲いかかった。公務員四九万人の削減、子ども手当カット、消費税の二〇%への増税(二・五%引き上げ)、大学授業料三倍値上げなどなどの財政緊縮政策を次々とうちだし、労働者・人民へのツケ回しに狂奔してきたのがキャメロン政権なのである。労働者・人民へのこの犠牲転嫁を踏み台とし、米欧日金融当局が撒き散らした金融緩和マネー≠ノ依拠することによって、イギリス経済は、ユーロ圏諸国の経済停滞を尻目に、二〇一三年からは二%台の経済成長を実現してきたのであった。 好景気≠フときはシティにむらがる資本家や投機屋だけが潤い、銀行が危機におちいると国家が救済し、緊縮財政と称してそのツケを労働者・人民に回す。労働者たちは移民と職の奪い合いをさせられ、賃金を切り下げられ、ますます貧困と強搾取を強いられる。――この「金融立国」イギリスの社会経済的現実と財政緊縮政策を強行しつづけるキャメロン政権にたいする労働者・民衆の怒りのマグマの鬱積こそが、権力者たちの思惑を吹き飛ばし、イギリス人民の「EU離脱」選択をもたらすことになったのだ。 (3) 追いこまれ国民投票の賭けにでたキャメロン シリア・中東からの難民の大量流入というヨーロッパを揺るがす大問題とも重なって焦点と化した<急増するEU域内からの移民の規制>および<EUのさまざまな規制の強化にたいして「主権を取り戻す」こと>を最大の争点にして、「離脱か残留か」をめぐってなされた今回の国民投票。そもそもこれは、「EU離脱」を叫ぶ大英帝国ナショナリズムを理念とするイギリス独立党が保守党の基盤を掘り崩して伸張し、保守党内の「離脱」派と残留派との分裂が深まるなかで、追いつめられたキャメロンが政権の座にしがみつくために、「離脱」派の要求を受けいれて実施したものにほかならない。キャメロンの狙いは、国民投票によって「EU残留」のお墨付きをとり、そうすることによって保守党内外の「EU離脱」派を抑えこむとともに、EUの規制強化をめざす独・仏枢軸のEUにたいして「離脱」の声を見せつけ、イギリスについての「特別な扱い」をひきだすことにあった。 そもそもキャメロンは、「EU単一市場は活用するが国家主権は譲らない」と主張する党内「EU懐疑」派に依拠して保守党党首になりあがり(二〇〇五年)、二〇一〇年の総選挙において「イギリス国民の同意なしに、これ以上イギリスの権限をEUに委譲しない」と謳って政権(自民党との連立)の座についたのであった。 この二〇一〇年に、ギリシャ政府債務危機を発端とするユーロ圏諸国の政府債務危機が全世界を揺るがした。この事態に直面して、イギリスでは「EU離脱」を掲げる独立党が急速に勢力を拡大し、保守党内の「EU懐疑」派も「EU離脱」派へと舵を切ってゆく。キャメロン政権は、こうした「離脱」派の勢いを抑えこむためにも、EUにたいして、ユーロ危機のりきりのための「財政協定」をイギリスには適用しないこと(ユーロ危機のりきりのための負担や規制の拒否)を強硬に要求し、これを呑ませたのであった。けれども、保守党内「EU離脱」派はさらに「EU離脱」の国民投票を要求し、キャメロンへのつきあげを強めてゆく。追いつめられたキャメロンは、二〇一三年一月に、「二〇一五年総選挙において保守党が勝利したならば、二〇一七年末までに<EU離脱>を問う国民投票を実施する」と宣言し、賭けにうってでたのであった。(二〇一四年の欧州議会選挙では、独立党が最多の議席を獲得した。) 二〇一五年の総選挙において過半数を制し保守党単独政権を組織したキャメロンは、公約どおり国民投票の実施を決めるとともに、EUにたいしては、(1)過剰な移民流入を抑えるために、移民への社会保障給付を期限つきで制限すること、(2)ユーロ圏の財政安定のための緊急措置に、非ユーロ加盟国は財政負担を負わないこと、などの要求をつきつけた。そして、二〇一六年二月の臨時欧州委員会において、他のEU諸国の猛反発をおしきってこの要求を認めさせたキャメロンは、「EUの中での特別な地位」を獲得したと凱歌をあげ、この成果を誇示することによって国民投票での「EU残留」の選択をとりつけることを狙い、国民投票を急きょこの五月に前倒しして実施することを決めたのであった。――だが、党内分裂を抑えこんで自己の権力基盤を強化すると同時に、統合の深化≠はかる独・仏枢軸のEUに「金融立国」イギリスの「特別の権利」を認めさせることを狙っておこなったキャメロンの賭けは、完全に裏目にでた。経済のグローバル化によって痛めつけられ続けてきたイギリス労働者・民衆の鬱積した怒りは、権力者の虫のいい思惑を完全に吹き飛ばしたのである。 (4) 独・仏枢軸のEUとイギリスの角逐 「Brexit(イギリスのEU離脱)」決定を受けて、イギリスを除くEU二十七ヵ国の権力者は六月二十九日に、「イギリスがEUの単一市場の恩恵を受けるには、労働者の移動の自由などを受けいれなければならない」という声明を発表した。EU離脱の動きが他のEU諸国にドミノ倒し的に拡がることを抑えるためにも、イギリスとの「Brexit」交渉において、「EU単一市場は活用するが、EUの種々の規制は受けない。国家主権は譲らない」というイギリスの「EU離脱」派が主張している虫のいい考えは許さないという基本方針を、EU諸国なかんずく独・仏の権力者は先制的につきつけたのである。 イギリスの「EU離脱」決定に刺激されて、他のEU諸国でもいま、「反EU・EU離脱」をめざす動きが活発化している。フランスでは、ルペンの率いる国民戦線が、民族排外主義を剥きだしにして反EUを煽り、来春の大統領選にむけて突進している。ドイツやオーストリアやオランダでもネオ・ナチの極右政党が跋扈している。ギリシャやイタリア、スペインなどの政府債務危機のりきりにあえぐ南欧諸国では、EU(+ECB、IMF)による財政緊縮政策のおしつけにたいする怒りが「格差」を糾弾する「市民」運動や反EUの民族主義的闘いとして沸騰している。そして、中東欧諸国では、押しよせるシリア難民にたいするEUの対応に反発を強める国家主義者たちが、西欧的価値観を押しつけるな、とがなりたてている。ポーランド与党党首カチンスキは、「(加盟国に権限を戻す)EU条約改正を」と叫んでいる。 「Brexit」を受けてさらに活発化しつつあるこうした動きに危機意識をつのらせ、EUの分解をくいとめるために、イギリスとの「離脱」交渉では一切妥協しない、という構えをとっているのが、ルペンに足もとを揺すぶられているフランスのオランドであり、EUの盟主として財政規律の厳守を各国に迫っているドイツのメルケルなのである。 ところで、そもそもイギリス権力者は、これまでも、EUに加盟していながらイギリス独自の利害なかんずく「金融立国」を推進するために、さまざまな「特別の地位」をゴリ押しして認めさせ、独・仏権力者との角逐をくりひろげてきたのであった。その最たるものが、単一通貨ユーロの導入を拒否し、ポンド通貨を維持しつづけてきたことにほかならない。EUに規制されない独自の金融政策の権限を確保し、オフショア市場としてのロンドン・シティの機能を守るためには、ユーロ通貨同盟の外に身を置いた方がよい、というわけなのである。またシェンゲン協定(協定参加国間は、国境審査なしに自由に出入国できる)についても、「国境管理は国家主権の核心」と主張して参加を拒否している。単一通貨ユーロ導入を基軸にして経済的・政治的統合をはかることを目標にかかげるEUに加盟しながらも、独・仏が主導するEU統合の深化≠ノは「国家主権は譲れない」とことごとく抵抗し、ただただEU域内において諸企業がヒト・モノ・カネを自由に調達し生産し販売することのできる「単一市場」として活用することを追求してきたのが、イギリス権力者なのである。――いまや弱体化しているとはいえ、大英帝国時代の植民地を基礎にしたイギリス連邦(五十四ヵ国)を背後に抱えていることが、こうした彼らのゴリ押しをささえてきたといえる。 (5) EUの構造的危機の深まり 他方、独・仏枢軸のEUはこんにち、難民対策を主導したり金融取引税の導入をぶちあげたりして、EUとしての政策統合の追求を強めている。とりわけ、いまやEUの盟主として君臨するドイツ・メルケル政権は、財政規律の厳守をEU各国に強硬に要求している。ユーロ通貨に依拠した政府債務の濫発やリーマン・ショックのりきりのための巨額の財政支出のゆえに、ギリシャ、スペイン、イタリアなどの南欧諸国がひきおこした政府債務のデフォルト危機(二〇一〇年)、こうしたユーロ通貨の信認・ユーロ圏の存続を脅かす事態を二度とひきおこさせないために、「毎年の財政赤字をGDP比三%以下に・政府債務をGDP比六〇%以下に抑える」という、ほとんどの加盟国が違反をつづけ有名無実化していたところの、「財政規律」の厳守をEU各国に迫っているのがメルケルなのである。(均衡財政を義務づける「債務ブレーキ制度」をドイツ憲法に明記し二〇一二年から財政黒字を維持しているメルケル政権は、この「債務ブレーキ制度」をEUの財政条約に盛りこませた。)――独・仏が主導するEUのこうした強硬な追求が、イギリスの「EU離脱」派の反発をさらに煽って勢いづかせ、他のEU諸国においても「反EU」のうねりを巻きおこすことに繋がっているのである。 たしかに、単一通貨ユーロの安定のためには、各国ごとに管理されている財政の安定が問題であるとはいえる。けれども、根底にある各国経済の不均等的発展を不問に付して、ただただ均衡財政を強制することは、ドイツの独り勝ち≠ニして現出している経済の不均等的発展をいっそう拡大し、通貨同盟と経済同盟からなるEUの強化どころか、逆にそれらの同盟の基盤を内側からほりくずしEU分裂の危機を招きよせることにしかならないのである。 いまやEUは明らかに、統合の深化≠フ掛け声とは逆に、大きく四つに分岐し分裂を深めている。 @南欧や中東欧諸国への輸出や投資・融資をくりひろげている独覇≠フドイツ(失業率四%台)をはじめとする西欧・北欧諸国。 Aユーロ危機後の財政緊縮政策のゆえに経済停滞に沈む南欧諸国。ギリシャやスペインの失業率は依然として二〇%超に高止まりしている。ギリシャ政府債務危機は依然として続き、この夏にも再燃の可能性を胚胎している。EUが緊縮財政をギリシャに押しつけつづけるかぎり、ギリシャ危機がくりかえされることは不可避である。若者たちが職を求めてドイツなどに移る他方で、ギリシャやイタリアには、シリア・中東難民が押しよせ、緊縮財政をつづけている政府にのしかかっている。 BEU内の新興国≠ニして、低賃金の技術的・技能的労働力を求めて進出するドイツ諸企業などの草刈り場≠ニ化している中東欧諸国。進出したドイツ企業にリストラされた労働者たちは、職を求めてドイツやイギリスに向かっている。 C金融によって好況≠保っているイギリス。独・仏によるEU規制強化に反発して「EU離脱」を選択。 このように分岐し亀裂を拡大しているEUとりわけドイツやイギリスをめざして、EU域外の中国やアジア・アフリカからも多くの労働者が流入している。こうしてドイツやイギリスでは「職の奪い合い」が激化し賃金の切り下げが強行されており、おしなべてどの地域でも貧富の差が拡大し、民族的・宗教的・文化的対立を激化させているのである。 「社会主義」ソ連圏のドミノ倒し的自己崩壊がもたらしたヨーロッパの地殻変動の中から誕生したのが、単一通貨ユーロの通貨同盟であり、これを基軸とするヨーロッパの経済的・政治的統合を目標にかかげるEUであった。統一ドイツが強大化することを警戒し、これを抑えこむことを狙ってフランス大統領ミッテランが要求した<マルク通貨の放棄による単一通貨の導入>と<ヨーロッパ統合の推進>とを、ドイツ統一の承認をえるために西ドイツ首相コールが受けいれることによって、単一通貨ユーロの通貨同盟の道はきりひらかれた。それは、<統合ヨーロッパ>のもとにドイツを封じこめることをめざしたミッテランと、ドイツ統一の悲願を優先したコールとの、独・仏の和解にもとづくヨーロッパの平和≠大目的としたきわめて政治的な判断にもとづく通貨同盟にほかならなかった。つくりだされたユーロ圏およびEU域内は、それゆえ経済的には、技術性と労働生産性の高い強力な製造業をもつドイツが圧倒的な国際競争力を武器にして席巻するドイツ国内市場≠フ様相を呈し、通貨ユーロは実質上のマルク通貨と化してきたのであった。ユーロ圏およびEU市場は、このようにはじめからドイツと他の諸国との、とりわけ南欧諸国との経済の不均等的発展という構造的矛盾をかかえ、EUの東方拡大とともにその構造的不均衡をますます拡大し、EU分解の危機をもはらんで内部対立の激化と構造的分岐を露わにしてきたのである。 EUの構造的不均衡の拡大のもとで、いま各国の労働者・人民は、移民労働者と職の奪い合いをさせられ、強搾取と貧困にますます苦しめられている。だが「社会主義」ソ連圏の自己崩壊いごの脱イデオロギー状況のゆえに、労働者たちの闘いは即自的な怒りの表出にとどまったり、民族排外主義に汚染させられたりして、混乱し混迷を深めている。こうした現実を突破するために、今こそ労働者階級の階級的闘いが国境をこえて組織されなければならない。 (七月十日) |
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6・19 「戦争法廃止!憲法改悪反対!」 金沢で五百名が怒りのデモ |
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六月十九日、金沢市のいしかわ四高記念公園において、「安保関連法=戦争法廃止! 憲法壊すな! 石川県民集会」とデモ行進がおこなわれた(主催は「戦争法反対! 憲法改悪阻止!」を呼びかける八団体)。石川県平和運動センターや「石川県労連」傘下の諸労組の組合員や市民ら五〇〇名が結集し、安倍政権による戦争のできる国づくりを許さないという怒りの声をあげたのだ。わが同盟北陸地方委員会の情宣隊は、集会が参院選にむけたカンパニアへと歪曲されようとしているなかで、それをのりこえるべきことを訴えるビラや『解放』号外を、参加者にくまなく配布した。 |
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金大生の戦闘的なシュプレヒコールが集会に闘う息吹 (6月19日、金沢市いしかわ四高記念公園) |
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