ミニ・トランプ≠フ跳梁跋扈に揺れるEU
危機に立つヨーロッパ階級闘争
トランプ政権誕生に雀躍する極右諸政党
アメリカ新大統領トランプは、二月二十八日の「施政方針演説」において、「国境の壁建設を開始する」、「(イスラム過激派を排除するために)入国管理を強化する」、「(世界最強の米軍を再建するために)最大規模で国防費を増額する」とぶちあげた。「アメリカ第一主義」を国家理念に高めたトランプは、これをあくまで貫徹してゆく意志を、反移民・反ムスリムの排外主義をむきだしにしつつ宣言したのだ。この男は今、みずからが発した中東諸国からの入国禁止令に抗議する声の高まりに包囲され、またロシア・プーチン政権との選挙期間中の秘密接触を次々に暴露されて、就任早々、足下が揺らいでいる。この窮状をがむしゃらに前に向かって突破しようとしているのが、人格破綻の新権力者・トランプなのだ。
このトランプの排外主義的言動に喝采の声をあげているのがヨーロッパ諸国で跳梁跋扈するいわゆる極右政党だ。彼らもまた、トランプと同様に「自国第一主義」を標榜し、反移民・反ムスリムの民族排外主義を煽ってきたからだ。彼らのすべてが、「ヨーロッパ連合(EU)」からの自国の「離脱」をめざしている。トランプの大統領就任式にあわせて、これに「祝意を表す」と称して、ドイツ西部の地方都市に彼らは総結集した。「ドイツのための選択肢(AfD)」党首ペトリ、フランス「国民戦線」党首ルペン、オランダ「自由党」党首ウィルダース。イタリア北部同盟とオーストリア自由党からも代表が列席した。「愛国主義は米国だけでなくヨーロッパ各国でも勝利する」(ウィルダース)とか「今年はヨーロッパが目覚める番だ」(ルペン)とかと豪語し気勢をあげたのだ。
これは、今年ヨーロッパ各国でおこなわれる一連の国政選挙に向けた彼らの総決起集会としての意義をもつ。三月十五日のオランダ総選挙、フランス大統領選挙(四月二十三日第一回投票、五月七日決選投票)、ドイツ総選挙(九月二十四日)、さらにイタリアでも総選挙の可能性がある。選挙で勝利し政権奪取の機をうかがっているのが、これらのミニ・トランプ≠ヌもだ。
政権奪取をもくろむフランス「国民戦線」ルペン
緊縮政策の下で生活苦にあえぐ労働者人民
今ヒトラー≠フ台頭に抗して闘う欧州労働者との連帯を!
トランプと同様に、ヨーロッパのミニ・トランプ≠スちも、政権の座につくために「反移民」の旗のもとに労働者人民の怒りを煽っている。生活苦にあえぐ労働者人民の不満の矛先を、自国の政府・支配階級にではなく、等しく生活苦にあえいでいる移民労働者たちにむかわせることがミニ・トランプ≠フ果たしている役割だ。このような今ヒトラー≠ニいうべき者たちが「労働者の味方」ヅラをして跋扈している。これほど屈辱的な事態があるか!
フランス社会党やドイツ社民党をはじめとする西欧の社会民主主義諸政党の多くは、政権の座につき・またその一角を占めて・まさにブルジョア国家の権力者として「EU統合」の旗をふり、帝国主義ブルジョアジーの利害をまもるための犠牲を労働者人民に容赦なく強制してきた。各国労働運動の指導部を牛耳る労働貴族もまた「階級協調」主義にもとづいて政府・支配階級の攻撃にたいする労働者の闘いをおさえこむ役割を果たしてきた。こうしたなかで、既成政党や既成労組指導部に愛想をつかした労働者人民の少なからぬ部分が、「反移民・反EU」を標榜する民族排外主義者にとりこまれつつあるのだ。
こうした屈辱的な事態は、スターリン主義ソ連邦崩壊後四半世紀を経た今日のヨーロッパにおける階級闘争の沈滞と、転向スターリニストだけではなく転向トロツキストをも含めての自称「左翼」諸組織の思想的変質によってこそ許されている。
ムスリム移民青年グループによるパリ銃撃・自爆襲撃事件(二〇一五年)にさいして、「共和国をまもれ」と叫んで政府の非常事態令に積極的に賛成したフランス共産党を見よ! この党は、一九八〇年代にアンチ革命<Sルバチョフに追随して社会民主主義的転向をとげたうえに、みずからが拠り所としてきたソ連邦の崩壊に直面して生命力を喪失し、今や極小政党に転落している。フランス・ナショナリズムにひたりきったこの転向スターリン主義者の党は、民族排外主義の台頭に対決する思想的拠点を失っているのだ。
「イスラム主義者の野蛮にたいして階級闘争をこえて人間性を擁護しよう」と叫んだフランスのマンデル派トロツキストもまた同様だ。スターリン主義ソ連邦を、「堕落した」とはいえ「労働者国家」であり「擁護」すべきものとみなしていた彼らは、その崩壊に直面して思想的にも組織的にも自滅した。今やレーニン主義もトロツキズムも捨てて「反資本主義新党」という名の市民主義的運動体に転態している彼らのイデオロギーは、「民主主義と人権の擁護」であり「環境保護」でしかない。「自由と民主主義の共和国的価値をまもれ」と叫んだフランス国家権力者オランドが主導する「反テロ」の合唱に加わっても、なんらの矛盾も感じないほどなのだ。彼らは、みずから反ムスリムの排外主義に労働者がのみこまれるのを助長する犯罪的役割を果たした、と言わなければならない。
マンデル派その他の転向トロツキストたちは今、トランプやルペンの「反ムスリム・反移民」の排外主義的煽動にたいして広がる反発にのっかり、「人種差別反対」「人権擁護」を掲げた「市民」主体の運動にとりくみつつある。ルペンに代表される今日のいわゆる極右政党の特質は、みずからを「自由と民主主義の西洋的価値」なるものの擁護者としておしだし、これを脅かす「野蛮」としてイスラムを描きあげ排斥することにある。こうした今日版の排外主義・ナショナリズムの鼓吹にたいして、同じ「自由と民主主義」の土俵で「人権」を対置することによっては、彼らの跳梁と対決し根絶することはできない。市民的個人の寄せ集めではなく、民族・人種・宗教の相異を超え労働者階級の階級的団結にもとづいてたたかうことこそが必要なのだ。排外主義に抗する運動を組織している者じしんが脱イデオロギー化し市民主義的に変質しているかぎり、それは不可能だ。
反スターリン主義前衛党の創成をかちとれ
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